『盤上の向日葵』ロケ地＆撮影秘話｜将棋と人間模様を映し出す舞台とは

映画『トリツカレ男』は、いしいしんじの小説を原作に、佐野晶哉と上白石萌歌が主演を務める作品です。夢中にならずにはいられない男・ジュゼッペと、歌声で彼を惹きつけるペチカの出会いを中心に、ピュアで不思議なラブストーリーが描かれています。
本作は「好きになること」の尊さと儚さをテーマに、幻想的な映像や音楽が観客の心を揺さぶる映画です。この記事では、鑑賞後の感想をもとに、魅力と気になった点を整理してお届けします。

主要ロケ地一覧：諏訪・片倉館・その他の撮影地点

映画『盤上の向日葵』は、長野県諏訪地域を中心にロケが行われた作品です。

静謐で力強い風景と、登場人物の繊細な心理描写が呼応するような映像が特徴で、舞台の選定が作品の空気感を大きく支えています。

ここでは、映画に登場する主なロケ地を紹介します。

長野県 諏訪地域：自然と情景が物語を支える場所

主人公・上条桂介の原風景として登場するのが、長野県・諏訪湖周辺の自然風景です。

穏やかでどこか寂しさのある湖畔や山道は、孤独と再生の物語にぴったりの舞台として印象的に映し出されています。

諏訪市・岡谷市など、信州の静謐な景観が随所に登場し、登場人物の感情を象徴するかのような場面が続きます。

片倉館：将棋の静けさを刻む古き大広間

劇中で象徴的なシーンの舞台となるのが、片倉館 会館棟2階・大広間（204畳）です。

かつて紡績会社の迎賓館として使われた建築美と静寂な空気が、将棋の「間」や緊張感を表現する場面に活かされています。

幼少期の上条が将棋に没頭する姿が描かれるなど、物語の原点を彩る舞台として大きな意味を持っています。

その他の都市・屋内ロケ：東京ほか都会シーンの撮影地

上条の過去と現在を交差させるため、東京など都市部のロケーションも取り入れられています。

将棋会館を模したセットや、棋士として活躍する場面の現代的な背景が、地方ロケとのコントラストを際立たせます。

東京近郊のスタジオや文化施設などで撮影されたシーンも多く、緊迫感ある現代パートの舞台として活用されています。

撮影秘話：俳優たちの役作りと空気感をつくる工夫

『盤上の向日葵』では、将棋と人間ドラマをリアルに描くための役作りが、俳優陣とスタッフの間で徹底されました。

セリフ以上に“間”や“表情”で感情を伝える演技が求められた本作では、現場での緊張感も非常に高かったといいます。

ここでは、主に坂口健太郎さんを中心としたキャスト・スタッフによる裏側の工夫を紹介します。

将棋の“指し手”をリアルに見せるための練習と演出

主人公・上条桂介を演じた坂口健太郎さんは、実在の棋士たちの映像や動作を徹底的に研究したと語っています。

特に「駒を持つ指の動き」や「対局中の姿勢」「思考する時間の沈黙」など、細部にわたる表現力が高く評価されています。

実際の棋士も認める“違和感のなさ”が、物語のリアリティを一層引き立てています。

自然光・ロケーション撮影の苦労と天候との戦い

長野・諏訪地域を中心としたロケ地では、自然光にこだわった撮影が行われました。

しかしその分、天候や時間帯による条件の違いに大きく左右され、撮影スケジュールが難航した日もあったといいます。

特に朝靄や夕景のシーンでは、一瞬の光を逃さないための緊張感ある現場が印象的だったとのことです。

セット・美術のこだわり：古民家・伝統建築の使い方

片倉館の大広間や古民家を使ったシーンでは、将棋という静かな世界を活かす美術演出にも力が入れられました。

家具の配置、障子越しの光、木の軋みなど、音や空気感にまでこだわった舞台作りが施されています。

セリフがなくとも「語る空間」として成立するよう設計された点も、見どころのひとつです。

ロケ地が物語に与える効果と象徴性

『盤上の向日葵』におけるロケ地は、単なる背景ではなく、登場人物の内面やテーマと密接に結びついた“もう一人の語り手”とも言える存在です。

風景の静けさ、光と影のコントラスト、人工物と自然の対比などが、登場人物たちの心情を象徴的に映し出しています。

ここでは、ロケ地が映画の演出にどのような意味をもたらしているのかを考察します。

風景とキャラクター心理のリンク：孤独と自然の対比

諏訪湖畔のシーンでは、広大な水面と無音の世界が、上条の孤独や不安を強調しています。

人との距離を感じながら、どこかで救いを求める彼の姿と、静けさに満ちた風景との調和が印象深い場面となっています。

自然は時に優しく、時に残酷な「心の鏡」として機能しているのです。

ロケ地としての“見覚え・聖地感”が観客に与える影響

片倉館のような歴史ある建築や、地元の人々に馴染みのある場所は、映画に“現実味”と“記憶の重なり”を与えています。

「あの場所に行ってみたい」「見たことがある景色だ」と感じることで、観客が物語に没入しやすくなる効果があります。

映画の聖地巡礼の対象にもなりうるロケ地の魅力は、公開後の話題性にもつながるでしょう。

将棋盤上の“向日葵”が映える舞台としての空間演出

本作のタイトルにもある「向日葵」は、太陽の象徴であると同時に、主人公の記憶と希望を暗示するモチーフです。

その向日葵が映える舞台として、緑がかった風景や光の角度にまで計算が施されています。

空間の中に“生きた意味”を持たせる演出こそが、本作の映像美の本質と言えるかもしれません。

撮影にまつわる裏話：エピソード・こぼれ話

映画『盤上の向日葵』の撮影現場では、静かな作品の中に秘められた熱い裏話がいくつも存在します。

厳しい自然環境、俳優たちの覚悟、スタッフの情熱が重なって生まれた作品だからこそ、観る者の心に深く響くのです。

ここでは、撮影中に語られたエピソードや、現場でしか得られないこぼれ話をまとめました。

夜明け〜深夜の撮影で役者・スタッフが体験したこと

特に諏訪湖畔や山中のシーンでは、夜明け前から準備を始め、日の出とともに撮影を開始する日々が続きました。

早朝の冷え込みや、霧による機材トラブルもありましたが、「自然光にこだわる」演出方針が貫かれたといいます。

坂口健太郎さんは防寒着を脱ぎ捨てて芝居に集中し、スタッフから拍手が起きたという逸話も残っています。

予告編で使われた風景と本編での使い分け

映画の予告編で印象的に使われている向日葵畑や湖のショットは、実際には短時間しか登場しないという点にも注目です。

これには、「印象的なシーンを予告に使い、本編では“余韻”として引きずらせる構成にしたい」という監督の意図が込められていたとされています。

映像と記憶を繋げるテクニックとして非常に効果的です。

編集・音響でロケ地効果をいかす工夫

撮影後の編集作業では、風の音、木の軋む音、足音などを細かくミキシングして、ロケ地の臨場感を最大限に引き出しました。

人工音を加えるのではなく、実際に現地で収録した環境音をベースに使っている点も本作の特徴です。

音が“もうひとつの演技”として機能していると、音響スタッフが語ったほど、音の扱いにも強いこだわりが見られます。

まとめ：舞台を知ることで映画がもっと深く響く理由

『盤上の向日葵』は、ただのヒューマンサスペンスにとどまらず、舞台となるロケ地そのものが物語を形づくる重要な要素として機能しています。

美しくも静かな風景、歴史を感じさせる建築物、そしてそこに漂う空気感──それらが人物の心情やテーマと緻密にリンクしているのです。

この章では、ロケ地を知ることで得られる映画体験の深まりについて整理します。

知識があると「見る目」が変わる

どんなシーンでどの場所が使われたのかを事前に知っておくと、映画の中での空間の意味がより明確に感じられます。

たとえば片倉館の大広間が出てきたとき、それが「上条の原点」だと理解できれば、シーンの重みも倍増することでしょう。

ただ眺めるだけでなく、心で受け取る映像になるのです。

ロケ地巡りで映画の世界に触れる体験

諏訪湖、片倉館、山道や古民家──実際に足を運べば映画の余韻がよみがえる場所が多数存在します。

映画鑑賞後にロケ地巡りをすることで、映像の世界と現実が交差する貴重な体験が得られるはずです。

「また観たくなる映画」になるきっかけにもなるでしょう。

作品全体の理解が深まり、感情の揺さぶりが増す

ロケ地や撮影背景を知ることで、作品の一挙手一投足に込められた意味がより深く理解できます。

その結果、登場人物の表情ひとつにも観客自身の感情が重なり、揺さぶられる場面が増えるのです。

映画を観る“体験”そのものが豊かになる──それが舞台を知ることで得られる最大の価値ではないでしょうか。